14.大ステージの楽屋裏(寄稿文)

佐藤直人(7M4VSI)

2001.11.23(金)ARISS計画記録集
JK1ZAM:入間市児童センター無線クラブ

 

 11月23日、14人の子ども達と児童センター無線ボランティア(以下メンバー)は「国際宇宙ステーション」直接無線交信という“日本初の快挙”を成し遂げました。その活躍に、楽屋裏から関わることのできた児童センター職員の回想です。

 

【ハム講座の見学】

 神奈川県立青少年センターの“ハム講座”を鈴木正弘(JG1CJQ)さん、江成均(7M2MJM)さん、安田聖(7M3TJZ)さんと私の4人で視察に出かけたのは、2001年1月7日の事です。これは、小・中学生を対象に毎年5〜7月にかけて児童センターで開催される無線教室のための研修です。研修先では“ハム講座”を見学の後、指導者との意見交換や無線室の見学、貴重な講座資料などを頂くことができました。
児童センター無線教室と異なる指導内容を検討し、翌年の無線教室の参考にする点など話し、横浜名物のシュウマイをお土産にして帰路についた4人でした。この約1ヶ月後、ARRLへ書類申請が行われ、ARISS計画への一歩がスタートします。
 今思えば、「国際宇宙ステーション直接交信」シナリオづくりの始まりは、横浜でのハム講座見学にあったようにも思います。

 

【10月の新聞報道】

 「国際宇宙ステーション直接交信」のためのハード・ソフト、関係機関などへの調整を進めていた10月。ある程度予期していたことではありすが、16日朝刊に国際宇宙ステーション交信関係の記事が出ました。これはARISS事務局より日本からの交信申請が認められたことを受けての記事ですが、この報道を見て児童センターへ幅広い問い合わせが寄せられる事となります。
 多分、NASDAの教育イベントをTVで見た方なのでしょう。「この前、TVで同じような事やってたみたいですが…」の問い合わせに対して、「今回は音声のみの交信なので映像はテレビに出ないのですが」と答える一幕もありました。他方、「具体的な交信の期日はいつ頃?」という今回の交信を楽しみにしている方も大勢いました。また、無線にとても詳しい方からの質問については、お答えできる範囲でお話しさせて頂きました。

 

【交信スケジュール変更】

 準備作業も順調に進み、カウンドダウンを迎える11月20日未明、安田さんからメンバーへ電子メールが転送されて来ます。
 
> Hi Folks: 
> Steve has just learned that both the Canadian and the Japanese school 
> contacts will occur on Friday. 
 
まさに青天の霹靂(ヘキレキ)です。21日(水)交信不成功の場合は23日(金)という想定はありましたが、事前に23日金曜日にシフトする旨の2行のメールは親切というか、予想外のことだけに舞台設営は大混乱することとなります。
 朝から100件を超える電話連絡が始まります。
 「国際宇宙ステーションとの交信日程の変更ですが…」と私。「それは中止になったの?、結局ダメになったという事?」けげんそうな相手の声。「そうではなくて、交信スケジュールが21日から23日に変更となり、時刻は…」一般招待者等への連絡は、バックグラウンドが違うだけに最初から説明しなければならず、一件一件大変な時間を要する電話となります。この日、児童センターに設置してある電話は常に通話状態で、市役所の電話を使っての対応も同時進行しました。また、メンバーやプレスからの問い合わせにも対応できない状況となってしまいました。

 

【感動と共に「ホッとした!」】

 1969年7月のアポロ11号月面着陸に強い影響を受けた少年は、やがて宇宙や天文に興味を持つ大人となり、今回「国際宇宙ステーション直接交信」に関わることができました。
 わずか10分の交信に向け、メンバーがあらゆる対策をとり、不測の事態に備えてきましたが、時間の経過と共にプレッシャーがかかってきます。何より“交信成功”が絶対条件の企画です。
 緊張もピークにさしかかった予定時刻の2時間前、「佐藤さーん、交信成功の可能性はどれ位なのー?」この場に及んで何と酷な質問でしょう。たまたま、カナダとISSが交信済みとの情報を聞いていた私は、「現時点で不成功につながる要素はありません!」ブッキラボウな返答をします。しかし、他のメンバーは、子ども達への配慮を考えてか、努めて明るく冷静に振る舞っています。そんなメンバー達の姿を見ると、緊迫した私の心にも平静さが戻ってきました。
 やがて、午後10時31分42秒、直接交信開始。かすかにフランク船長の音声が聞こえた瞬間、見守っていた観衆から大きな歓声が上がり、会場全体が一つになりました。
 私自身も、大きな感動を覚えると共に、ようやくホッと一息つける瞬間を迎えることができました。そして、フランク船長と交信している子ども達の姿に、宇宙に興味を持った少年の頃の自分の姿を重ねて見ていたのでした。


sato●naoto

 楽屋裏の風景をあれこれ書いてきました。最後になりますが、子ども達に夢や希望を与えるARISSの活動が末永く続くことを楽しみにしています。